ゼミでの学び

2026年04月25日
授業で聴覚障害にふれることがあり、20数年前に書いた文章を引っ張り出してきて受講生に配布した。
物が捨てられない…のも、たまにはいいことがある。


  • レオくんがゼミに参加して

 98年度、日本福祉大学障害児教育ゼミには、聴覚に障害のあるレオくんが参加することになりました。レオくんは、手話、または口話を用いて他者とのコミュニケーションをとっており、講義には要約筆記(以下、ノートテイク)を友人に頼んで参加しているとのこと。そのようなレオくんが参加してゼミ運営をどのように進めていくのかについて、年度の初めにあるゼミ合宿において議論し、学習することになりました。

 ゼミ生で話し合った結果、合宿中にレオくんからノートテイクの方法・技術について学び、ゼミ生が交代しながらそれを担当していくことになりました。合宿では、ノートテイクを初めて経験する学生、またレオくんに配慮せずに早口で発言する学生も多かったのですが、2泊3日の合宿中に交流を図る中で、ゼミにおいてレオくんを含めた全員が情報を共有していく(情報の保障)ことへの理解が深められていきました。

 しかし、実際にゼミ活動を進めていく中で、様々な壁にぶつかりました。学生によってノートテイクの技術に差があること、筆記の速度が遅いと情報の伝達に時間差が生じてしまうこと、それによってレオくんが理解し発言を検討する前にどんどん次の内容へと進んでしまうこと、ノートテイクをしている学生はゼミへの参加が制限されてしまうことなど、いろいろな問題点が出てきました。

 特に、この「時間差」には大きな問題があります。私たちも経験がありますが、「何かの話題でみんなが笑っている。でも、自分にはなぜみんなが笑っているかわからない」。これは大変つらいことです。その場の笑の輪の中には自分一人が参加できない。そして、ノートテイクをする者も、そのみんなが笑った内容を文面でどのように伝えるのか、大変難しいものがあります。

 このように、レオくんからゼミ生に伝えたいこと、私たちからレオくんに伝えたいことが、スムーズに伝達、交換できない、場合によって時間差だけではなく、誤解されて情報が伝わってしまうなどコミュニケーションの難しさを経験しました。何か問題が出てくる度にみんなで考え、議論していくのですが、それらを解決する明快な答えはなかなか導き出せませんでした。

 ゼミ内だけでの問題解決に限界を感じ、この年から開設された障害学生支援センターへ何らかの協力をしてくれるようはたらきかけを行いました。その成果もあって、後期からゼミには、学内の登録ボランティアで、県の手話通訳者(夜間部学生)でもある方が派遣されるようになりました。

 しかし、レオくんから、新たな問題提起がされました。「みんなが、ぼくに向かってではなく、手話通訳者に向かって話している。気持ちが伝わってこない」というのです。

 情報の保障という面では改善されましたが、ゼミ内でのコミュニケーションという面においては、私たちにはまったく気づかない難しい問題があったようです。

  • レオくんとのプライベート

 私はゼミ内での数少ない男性同士ということもあって、レオくんと大変仲良くなっていきました。多くの時間を彼と過ごしました。

 私は聴覚に障害のある知り合いが多いのですが、手話はできません。ですので、レオくんとのコミュニケーション手段は、筆談、口話と少しずつ覚えた手話、私たちだけの理解できる(私たちが開発した)手話などでした。

 私も彼も議論が好きで、夜な夜な彼の家で、福祉のこと、障害者のこと、異性のことなどを語りあいました。出会ったはじめの頃は、レオくんも私の口話に慣れていないので、なかなか読みとれず何回も聞き返しては疲れている様子。私も自分の思いがなかなか伝わらないのでやはり疲れます。しかし、しだいに彼は私の口話を読めるようになり、私も彼との交流の中から手話を覚えてきたので、コミュニケーションがスムーズになってきます。私たちならではの手話表現も出てきて、コミュニケーションが楽しくなっていきました。そして、おかしな話なのですが、人の話を私が口話で通訳するという状況もでてきました。コンパの席など、いつも私が意識的に彼の近くに座り、口話での通訳をしました(レオくんにその意識があったかどうかはさだかではないが)。

 ゼミでバレーボール大会に参加した後の打ち上げの席でのことです。酒もまわり盛り上がってきた頃、レオくんは突然その家にあった漫画の本を読み出しました。私もみんなで話しているのにおかしな奴だと思ったのですが、ある一人が「みんなで楽しく話しているのだから、漫画なんか読むなよ」と彼に言ったのです。レオくんはそれを謝りながら、「でもみんなの話にぜんぜんついていけなくて、ついていこうと頑張っているんだけど、すごく疲れるんだよね」」と言いました。また、コンパではこんなこともありました。レオくんがコンパの席で元気に仕切ることが多かったので、私は彼の明るい性格ゆえと考えていたのですが、何か際にそのことに触れると、「自分が仕切っていると、みんなが自分のペースにあわせてくれる。自分の文脈で参加することができる。だからちょっと無理してあんなに仕切っているんだよ」と言いました。私には想像のつかないことでした。

  • レオくんと離れて

 現在のレオくんと私とのコミュニケーションの方法はファックスが中心です。近況の報告をしあいます。でも時々、彼からの留守電もあります。「留守電のピーという発信音」だけは聞こえるのだそうです。そのレオくんの留守電メッセージは仲間内の評判がよいため、彼は自信をつけ、頻繁にあちらこちらに電話をしているようです。

 4年生となった彼は就職活動の真っ最中。福祉現場での就職を希望しています。以前彼は就職について、こんな悩みを語っていました。

 知的障害者施設で実習をした時に、入所者がレオくんに何かを伝えている。しかし、レオくんは一生懸命理解しようとするが、その入所者の言っていることが全くわからない。後で、職員にその内容を聞いたら、入所者はトイレに行きたい旨を伝えていたそうです。「あの入所者の言いたかったことが、命に関わることだったら・・・」と彼は言います。

(初出 2000年)

ある子どもが作ってくれた「古墳」(本文とは関係はありません)。

半年以上前に作ってくれたものだが、最近突然「古墳まだ持っている?」と聞かれた。「お部屋の前に貼っているよ」と伝えたが、私にとって大切なもの。



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